月光の道を、長い散歩に出ていた。今日は天文台に来客があるのだが彼はきっと夜更けにしかやってこない。
幾重にも重なる丘へと続く林を進む。木々の花は半ば崩れ、実へと調い始めていた。 差し交う月の木漏れ日が靴先を照らす。 夜気は冷えた水の香りで、枝枝が青やいでいた。
木々の隙間には水滴を垂らしたような星々が滲んでいた。比喩ではなく実際にぼんやりとうるんで見えたので、これも露気の影響だと気がつく。秋は露が下りるものだが、それは何も地上に限ったことではないようだ。空も存分に水を吸って軟らかく、深くなる。月の輪郭も溶け出したように茫と煙っていた。
星が溢れそうなほど輝いていた夏に比べ、随分とひっそりとした印象を受ける。全天に明るい星が少ないのだ。一等星は南に低く登るオリスただひとつ。 しかし実のところ、秋の星座は他のどの季節よりも豪華だった。 天頂近くの北極星東方にあるレックスとレジナは、それぞれ玉と王妃を意味する星座だ。その下方には彼らの娘である王女と、後の王子となる英雄フォルキスの星座がある。天頂に所狭しと王族が立ち並ぶ様子を想像すると、この静かな瞬きがまた、厳かな雰囲気を持つものに変化して楽しい。
漸く林を抜ける。背後から草木を割って吹き抜ける風がざあっと背中をさらった。頸を梳く冷たさに顔を上げれば、ひらけた視界の先に月の宿る丘があった。たなびく赤い布と紫煙。どうやら来客の方が先に着いていたようだ。
「やあ」と届くような声で言った。彼はただ微笑んだ。自分に大きな声は似合わないと知ってるからだ。麓を流れる小川を渡って丘を登る。彼をこの天文台に再三招待して一世紀も待ったのだ。今日は存分に、天体観測に付き合ってもらおう。
