初夏の眩しい風が渡る。岩に蔓延る緑の根はずいぶんと水々しくなって、野茨の棘も軟らかくなった。

ここ数年お気に入りの場所がある。資料室の奥にある陽当たりの良い張出窓だ。長方形をしたこの窓は随分と高く悠に空を望めるので、折を見てはここで過ごしていた。  青く花やかに蕾を透かす朝日。沛然と降る雨に立ち煙る緑。目眩く展望はいつも瞳を楽しませてくれる。  この頃の窓の外には、暗緑色の幹が堅く伸びて、藤の花が地面から堆高く咲きこぼれていた。

額を寄せて窓辺に腰掛ける。見上げれば、照り嵩む紫に澄んだ空が冴えている。  ここで昼中の星々を探すのが好きだった。

星はなにも夜だけのものではない。太陽光による反射でよく知る「青空」というものが出来上がるわけで、その根底にはいつだって銀河が広がっている。昼間に淡く月が見えるように、目が慣れて来れば一等星を見つけられるようになるだろう。

思うに、昼間の星を観る楽しさは本来この季節に観れるはずのない星に会えるところにあるのだ。  今東の地平近くにはアデュレやルブラが見られ、その様子は冬の凍てついた夜空にいた時とは打って変わって穏やかに感じられる。空色に微睡むようにしてほんのりと白く灯る様相だ。そうやって親しんだ星がまた違った表情を見せるのは楽しい。

このまま空中散歩でもしたい陽気だが、今日はこのまま窓越しに眺めることにする。どこか本棚の隅に越冬した酒瓶があったはずだから、それを開けてみるのも良いだろう。  2杯ほど傾ける頃には地平に弦月が揺らめくはずだ。その姿を心待ちにして、陽の光に温もる窓へとまた額を寄せていた。

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