言い訳をさせてほしい。あれは梟が悪いのだ。 普段の彼が使う洗練された梟だったなら、その小包を受け取ってすぐ開けていただろう。それが見覚えのない、そしてやたら鈍臭い梟だったから放っておいてしまった。 そういうわけで今になって文献の山に埋もれていたそれを解いている。中からはもう季節外れとなってしまった葡萄を模したネクタイピンと、丁寧に畳まれた紙が一枚。実が深く色づいてきたので、と招待する旨のものだった。
熟れた果実色の正装に件のネクタイピンをして、彼の元を訪れた。「随分と秋めいた装いですね」と微笑みを頂いたが中には通してくれた。他の客はいない。閉店後の誘いだった。
注文するまでもなく、彼は棚の隅に避けてあったワインボトルを手に取った。残しておいてくれたところを見ると、別段怒ってはいないらしい。 ここで1つの手がかりを得る。確認のため口を開いた。 「梟が君のじゃなかっただろう?」 「以前飛行訓練をされている方がいらしたので、頼んでみようと」 「ああ、なるほど」 これで確信した。なぜ梟次第の曖昧な招待だったのか。 薄いワイングラスが満たされていく。それは2つ用意されていた。 「君も?」 分かりきっていたので返事はなかった。
隣り合って座らず、やはりカウンター越しに酒を交わしていた。 互いにグラスが空いた後、彼は褪せた赤色のブックマッチを取り出した。流れる所作で火をつけて煙管へ灯す。 「おや、素敵だね」 そういうある種遠回りな物を好むことを知っていた。檜の柄の傘だとか、細かな装飾の施された栓抜きだとか。魔法ひとつ有ればいらぬものを。 「あなたにこの情趣を解せるとは思いませんが」 「ひどいな」 すげなく言い返されて肩をすくめる。 「仮にも、今日は俺を案じて設けてくれた席なのに」 先程得た答えを口にすると一拍、彼は素知らぬ顔をした。やはりそうなのだ。この招待状は流星群の降る頃に送られたものだった。 つまり一年前はちょうど天文台を燃やされた日に当たる。
「いつまでも引き摺る性分ではないと知っているだろう」 「そもそも一言も肯定しておりませんが、そうですね。心配して損をしました」 彼はにっこり笑って煙管を置いた。見たままの感情でない。棚から別の酒瓶を取り出し果実を切り始める。 「試作かな」 「いえ、一年前に」
そう言って出してくれた酒は喉が焼けるほどに強かった。それこそ前後不覚になるような、と思い、ようやく先ほどの言葉を理解した。これはあの時に出してくれなかった方の酒に違いなかった。
しばらくは耐えられたが、限界のようだ。頬を当てたつややかな深い木の冷たさを感じながら、暗く落とされた角灯を見上げる。落ちる瞼の間でぼんやりと隕石のように見えてきた。 存外、引き摺っているのかもしれない。天文台と共にスコーピオの心臓が燃えていたのを今も鮮明に覚えていた。
彼が、何事かを呟いた気がする。 もう開かない瞳の奥に、焼き焦がすようにゆらめく光が灯っていた。